2026.05.21
擁壁とは何?工事の費用や種類、土地選びの注意事項を紹介
擁壁のある土地、擁壁の必要な土地は相場が安く、見晴らしなどの要素で、魅力的な土地であることも多いです。
しかし対策予算や災害リスクなどを考えると、購入するうえで不安も残るでしょう。管理責任についても、リスクがある物件です。これらのリスクは、どのように見極めたらいいのでしょうか。
本記事では、擁壁とは何か、工事の費用や種類、土地選びの注意事項などをご紹介します。立地選びの参考にしてください。

INDEX
擁壁とは何?

擁壁とは、高低差のある場所に土地や家屋を造成する際、斜面の崩落を防ぐために設ける壁状の建築物のことです。
高低差のある土地は、建物の重さや地震などの影響で、土の中の水分圧力などが影響し、高いほうから低いほうへ地盤が崩れたり傾いたりするリスクがあります。
擁壁が地盤の土圧を支えることで、土地が崩壊するのを防ぐことが可能です。
擁壁とコンクリートブロックの違いを比較
擁壁とコンクリートブロックは見た目は似ていますが、役割がまったく違うものです。
擁壁は前述のように、土地の崩壊を防ぐための「土留め」の役割を持っています。
一方コンクリートブロックは、隣の土地との境など境界を明確にする「仕切り」が主な役割です。
高低差が小さい土地では土留めとしてコンクリートブロックを使っていることもありますが、現行の建築基準法では擁壁としての基準を満たさないため不適格擁壁として扱われます。
擁壁工事が義務付けられている理由と条件
擁壁が必要になるかどうかは、周辺の宅地や前面道路と比較し、高低差が2m以上あるかどうかが判断基準になることが多いです。
多くの自治体では「がけ条例」を設けており、土地の高低差が2メートル以上、角度が30度以上の崖の上・下に家を建てる場合には擁壁をつくることを定めています。
高低差がある土地は崩れやすく、擁壁工事を施さなければ土地が崩れて人命にかかわる大事故に繋がりかねないためです。
土地の高低差が2m程度以上あるなと思ったら、擁壁施工対象となるかを必ず自治体に確認しましょう。
なお、擁壁に関する基準は、以下の3つの法令で規定されています。それぞれ規定の範囲は異なりますが、コンプライアンスも意識して、安全な擁壁の維持管理に努めることが大切です。
※擁壁に関する法律
擁壁の主な種類

鉄筋コンクリート擁壁
鉄筋とコンクリートを組み合わせてつくられた擁壁(RC擁壁)は、住宅地でも見かけることが多い構造です。
強度が高く耐震性があり、斜面に対してまっすぐに設置できるため、擁壁上の土地を有効に使えるというメリットがあります。耐用年数は30~50年前後が目安です。
鉄筋コンクリート擁壁の主な工法は、以下の三種類があります。
- ● L型擁壁
- ● 逆L型擁壁
- ● 逆T型擁壁
最も多く用いられるのは、敷地を広く使えるL型や逆L型(低いほうの土地に建てる場合)です。

無筋コンクリート擁壁
無筋コンクリート擁壁(重力式擁壁)は、鉄筋は使用せずに、コンクリートの重量を利用して土圧を支えて止める擁壁です。材料はコンクリートのみからつくるためシンプルに施工が可能で、鉄筋コンクリート擁壁よりも費用を安く上げることができます。
工法は以下の2種類が主流です。
- ● もたれ式:土地の斜面に沿い傾斜を決め、土圧を分散させる
- ● 重力式:地面に対して垂直に擁壁を形成するため、安定性が高い
土地の特徴や費用面などを考慮して、もたれ式か重力式かを選択します。
ただし、鉄筋を使用しない擁壁でも強度が十分なのか、地盤調査結果を踏まえて、計画を立てましょう。
石積み擁壁
石を積み重ねて建築する工法です。
戦国時代の城壁といえば、イメージがつきやすいでしょう。日本では古くから城壁や河川・水路の側壁などに用いられていました。
工法には、石と石の間をセメントやモルタルで固める「練積み」と、砂利や小石だけを積み重ねる「空積み」があります。
自然石の持つ独特な風情があるのですが、強度が出せないことが弱点です。現在「空積み」は建築基準法上の擁壁としての基準を満たしません。
また、石積み擁壁は軽石で耐久性が低いため、近年2メートル以上の擁壁建築では、ほとんど用いられない工法です。
ブロック擁壁
鉄筋が入っていない専用のブロックを積み上げる工法です。間知(けんち)ブロックは造成地のほか、河川敷などでもお馴染みでしょう。工期が長くなるものの、大型重機を使わずに施工できるため、費用を抑えることができます。
自然の石や六角形のものなど、ブロックの種類が豊富です。
メリットは、費用が安く済み、狭いところでも設置できること。これに対し、デメリットは、土地に対し、上に向かってブロックを斜めに設置していくため、そのぶん家を建てるための土地が狭くなってしまうことが挙げられます。
施工会社によって見た目の完成度に差が出やすいので、施工する場合は、実績のある施工会社を選ぶようにしましょう。
擁壁がある土地の家を購入するメリット

擁壁のある土地に家を購入する場合のメリットを3点ご紹介します。
1. 眺望や日当たりが良い
擁壁がある土地は高低差があるので、景色がひらけて眺望が良い土地となっています。これは擁壁のある場所に家を建てる一番のメリットといっても過言ではないでしょう。また、周囲に高い建物がないので日陰になりにくく、日当たりが良いのも特徴です。
2. プライバシーの保護
前面道路から高い場所になるため、外部者から容易に敷地内を覗かれることがなく、プライバシーの確保にも繋がります。プライベート空間が確保され、落ち着いた生活を過ごすことができるでしょう。
3. 住宅の購入価格が相場より安い
自治体の法律に沿って擁壁を施工するなど、きちんとリスク対策をすれば、一般的な相場より安く買えることも多いです。
また、擁壁は周辺景観の向上にも寄与します。美しくデザイン性の高い擁壁を設置することで、町全体の景観が良くなり、ひいては資産価値が向上することにも繋がります。
擁壁のある土地を購入する際の6つの注意点

建築基準法をクリアしていない不適格擁壁ではないか確認
現在の建築基準法の施行以前につくられた擁壁は「不適格擁壁」であることが多いです。
その場所に住宅を新築する場合は審査の対象となり、建築確認申請が通りません。この場合、補強を施したりつくり直しが発生したりするなど、余計な費用がかかってしまうリスクも。
また、補強をしたとしても、継ぎ足しされていたり大きく張り出した擁壁はバランスが悪かったりするため、豪雨や地震などで倒壊する危険性が高くなります。
擁壁のある土地を選ぶ際は、建築基準法をクリアしているかどうかの確認を、必ず行いましょう。
隣接する土地との境界を確かめておく
擁壁は隣地との境につくられていることが多いため、境界線がどこなのか、また所有権も事前に確かめておくことが大切です。
境界線は隣地との土地の境目を示していますが、壊れていたり、なくなっていたりする場合もあります。隣地の所有者と揉めないために、境界線を確認しておきましょう。
また、境界線の上に擁壁がつくられていて、隣の敷地所有者と共有の場合は、補修やつくり直しの際に費用で揉めるケースもあります。
隣地の所有者とは今後もお付き合いが続くので、円満な関係のためにも事前の境界線確認は大切です。
劣化度合いの確認
擁壁には耐用年数があります。新築時には問題がなかったとしても、年数が経ち寿命が近づくとブロックのひび割れ・膨らみ、ブロック同士のずれ、水抜き穴の割れや欠けなどの劣化が発生します。
擁壁の補修やつくり直しには、専門的な技術が必要となる場合が多く、その分まとまった金額の費用を用意しなくてはなりません。
全体の構造に歪みがないか、ひび割れ箇所などの明らかな劣化箇所がないか、あらかじめチェックしましょう。専門の施工会社に相談し、いっしょに見てもらうことをおすすめします。
擁壁の上に自分の想定している家を建てられるか
擁壁のある土地は、安全性を確保する必要から、建築可能な範囲が制限されるケースがあります。
たとえば、擁壁から〇m下がったところからでないと建築ができないなどです。そうなると、建物の面積が理想より狭くなることも。
家を建てられない範囲は、自治体の条例などによって異なります。併せて法律面のチェックも必要です。理想の広さの家を建てられるのか、必ず家づくりの業者といっしょに確認するようにしましょう。
土砂等の災害リスクがないか確認
大規模な造成を行った宅地は、地域全体がもともと傾斜地になっている場合が多く、台風や豪雨の際に地すべりを起こすなど土砂災害が発生するリスクが高いこともあります。
事前に目視で、コンクリートにひびが入っている・継ぎ目が膨らんでいるなど、明らかな劣化が確認できる状態の擁壁は危険です。
擁壁自体に問題がなくても、上の土地から土砂の崩落などが発生すれば、建物が被害を受ける可能性が考えられます。
土地の土砂災害リスクは、国土交通省のハザードマップで確認してみましょう。
ご参考:
ハザードマップポータルサイト|国土交通省
普段の生活における不便さがないか確認
擁壁のある地域に家がある、ということは、周辺の生活道路から高い場所に家があるので、日々の暮らしの中で常に坂道を利用することが多くなるでしょう。
毎日の通勤や通学のため、駅まで歩いたり自転車を使用したりする生活では、坂道が辛く、また危険を感じるかもしれません。スーパーでの買い物後の荷物を抱えて、坂を上るのもひと苦労となりがちでしょう。
保育園や学校、病院などの周辺環境も踏まえ、また自分が年を取ったときの生活も想像するなどして、長い目での暮らしをシミュレーションしておくことが大切です。
擁壁工事にかかる費用の相場は?

擁壁を新しく建てる場合の費用相場
鉄筋コンクリートの擁壁では、土地の条件にもよりますが、1㎡当たり5~10万円が目安といわれています。さらに勾配がきつい場合は、擁壁の方法を途中で変える必要がある場合も。
また、現場周辺の道が狭い場合、小さなトラックで何度も往復することになり、追加で運搬費が余計にかかってしまいます。勾配が急な崖+現場までの道のりが狭い場合、目安として1㎡当たり10万円の加算となるでしょう。
さらに、目の前が道幅の狭い道路の場合、近隣の通行制限なしでは、施工できないことがあります。
がけ条例のある地域ではたいてい通行制限が必要になります。そうなると、交通整理をするための人件費なども必要です。
なお、分譲地の場合はおおむね土地代に擁壁工事費用が含まれているので、土地購入後に追加で擁壁の工事費用は不要ですが、念のために追加費用がないかを確認してください。
擁壁を建て直す場合の費用相場
擁壁を建て直す場合の費用は、1㎡当たり10万円前後が目安です。
擁壁の建て直し工事は、既存の擁壁の撤去と新設擁壁の建設の2つの工事となります。撤去工事は、足場を組み既存の擁壁を解体し運搬や廃棄、土の運び出しなどを行い、新設工事は通常の新設と同じ作業です。
このように、建て直し工事は、新設や補修だけの工事よりも費用がかさみ、期間も長くなる可能性があります。
また、擁壁が隣地と共有している場合は、所有者全員との協議・合意を得て、工事費用を分担することが必要です。
擁壁を補修する場合の費用相場
擁壁を補修するリフォーム費用は、補修内容によって金額が変わります。それぞれの目安は以下の通りです。
- ● ひび割れの補修:1㎡当たり3万円~(割れ目に接着剤を注入)
- ● 水抜き穴の新設:1カ所当たり3万円前後(水抜き穴を必要箇所に追加)
- ● 石積みの補強 :1㎡当たり4万円~(目地に補強材を注入)
擁壁は屋外にあるため、直射日光や雨風など日々過酷な環境にさらされており、経年とともに自然と劣化が起こります。劣化が進むと安全が保てなくなり、擁壁の役割がなくなることも。
そのため、定期的に適切な補修が求められます。また、擁壁に関する法律や自治体の条例の改正があった場合も、補修が必要です。
補修が必要な部分をそのままにしていると、大幅な建て直しが必要になったり、最悪の場合大きな災害に繋がってしまったりする可能性があります。
補修は建て直しよりも費用が抑えられる傾向にあるので、欠陥を見つけたらなるべく早急に対応しましょう。
擁壁工事では助成金の活用は可能?

擁壁に対策する工事を行う際、管轄自治体からの助成金・補助金が出ることがあります。対象は、擁壁を新設する工事だけでなく、擁壁の建て直しや補修も対象です。
申請を行うのは土地・建物の所有者であることが一般的ですが、手続きは施工会社にサポートしてもらうと良いでしょう。
助成金の額は、総工費に対する割合や上限額があることも多いです。対象となる工事範囲や助成金額が自治体によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
東京都港区の「がけ・擁壁改修工事費用助成」は現在以下の条件で助成金事業が行われています。
| 対象の工事 | 改修後の擁壁が2mを超えることなど |
|---|---|
| 助成額 | 助成対象工事に要する費用の3分の2以内 |
| 上限額 | 土砂災害(特別)警戒区域内の場合:5,000万円 土砂災害(特別)警戒区域外の場合:1,200万円 |
| 必要書類 | 申請書、登記事項証明書、建築確認済証、設計図書、工事見積書、工程表、写真など |
※助成対象工事をしようとする擁壁が同一の敷地に2基以上ある場合、それぞれの工事費用の合計額から助成額を算出。
※助成対象地を複数の者が共有する場合、共有者の人数にかかわらず、一の助成とする。
※分筆された敷地にまたがる一連のがけ・擁壁を対象として、複数の所有者が共同して一体の助成対象工事を行う場合、助成対象工事に要する費用は所有者ごととする。
※助成対象工事に要する費用に、消費税相当額は含まない。
ご参考:
がけ・擁壁改修工事等支援事業|東京都港区
擁壁工事後に必要なメンテナンスと耐用年数

新築の擁壁における耐用年数は、設置場所や施工の精度、擁壁の厚さなどで違いはあるものの、およそ30〜50年とされています。
しかし、耐久年数の間は何も意識しなくて良いということではありません。
擁壁にある水抜き穴(地中に溜まった雨水を壁の途中から抜くもの)が詰まり、排水が正しく行われていないと、水圧での倒壊や、傷みを早める恐れがあります。
ひとたび倒壊すると、通行中の人やそばの建物に深刻な被害をもたらす可能性も。日頃から定期的なチェックやメンテナンスを行い、擁壁を長く維持することを心がけましょう。
擁壁工事に関するQ&A

300万円でどのくらいの擁壁工事ができる?
鉄筋コンクリート(RC)擁壁では、土地の条件にもよりますが、1㎡当たり5~10万円が目安なので、30〜60㎡の工事が可能です。
ただし、土地の条件=工事車両の出入りや機器の搬入のしやすさなどで、上記の2倍程度の費用となることもあります。
擁壁の高さを3mにするといくらかかる?
鉄筋コンクリート造における擁壁の建設は、高さによっても価格が左右されます。
3mの高さのものでは1㎡当たりで7万円程度が相場といわれているため、たとえば高さが3mの擁壁を幅10mにわたってつくった場合は30㎡=210万円程度の費用が必要となる計算です。
擁壁は何年くらい持つ?
一般的に30〜50年といわれますが、災害などで大きな負荷がかかったあとや、排水がうまく行われていない期間が長かった場合、事故に発展する可能性があります。日頃から傷みの兆候や排水の状態をチェックしておきましょう。
まとめ

擁壁とは何か、工事の費用や種類、土地選びの注意事項などをご紹介しました。
最近の建築資材、人件費の高騰から、住まいの建物にかかる建築費は値上がりが続いています。加えて住宅ローン金利の上昇も懸念されているため、家づくりの家計負担は大きくなるばかり。
そこで、土地にかかる費用をうまく圧縮できれば、有利な家づくりに繋がります。
本記事の知識のほか、実際に擁壁のある土地に暮らす人のエピソードを集めたり、防災へのリテラシーを高めたりすることで、いろいろ分かることがあるでしょう。納得の行く土地選びとなれば幸いです。
執筆・情報提供

滋野 陽造
早稲田大卒。マスコミ広報宣伝・大手メーカーのWebディレクター・不動産仲介業を経て、ライター業・不動産賃貸業に従事。実務経験をもとに住まいづくり、不動産の売却・購入、暮らしの法令などのジャンルで記事の執筆を行う。
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この記事はハウジングステージ編集部が提供しています。





